Zalandoはなぜ自社在庫からマーケットプレイスへ転換したのか
ZalandoのPartner businessはFY2024にB2C GMVの34.3%。Wholesale起点からPartner Program・Connected Retailへ広がった時系列と、粗利率・2028目標・日本企業への示唆3点を整理します。2026年9月時点。
海外マーケティング事例

欧州ファッションEC大手Zalando(ザランド)は、自社が買い取るWholesale(卸売・自社在庫)型から、パートナーが出品・在庫を持つPartner Program型へと、売上構成を段階的に移してきました。FY2024のPartner business GMVは52億3,900万ユーロで、B2C GMVの34.3%です。本記事では、転換の因果を時系列で追い、粗利率・2028年目標・日本企業への示唆3点をわかりやすく解説します。
転換前の本体:Wholesale(自社在庫)型
Zalandoの出発点は、ブランドから商品を仕入れて自社が在庫を持ち、顧客へ売るWholesaleモデルです。公式のパートナーシップ説明では、WholesaleではZalandoが法的な在庫所有者となり、注文・決済・物流・顧客対応まで担う、と整理されています。品揃えの質を買い手がコントロールできる一方、売れ残り・値下げ・返品は自社のバランスシートに残ります。
多ブランドファッションではSKU(Stock Keeping Unit:在庫管理単位)数が膨大です。季節・サイズ・色の組み合わせが増えるほど、自社在庫だけで「欠品なし・鮮度あり」を両立するコストが上がります。ここが後のマーケットプレイス拡張の動機になります。
日本企業が欧州向けに多ブランド展開するときも、まず「自社が買い取るSKU」と「相手が出品するSKU」を分けて設計します。全部を自社在庫にすると、拡大と同時に在庫回転の悪化が先に来ます。
第1の転換:Partner Program(2011年〜)
Partner Programは、ブランド・小売がZalando上で販売しつつ、在庫所有・価格・品揃え・物流の主導権をパートナー側に残すマーケットプレイス型です。Zalando公式は、パートナーが価格を決め、zDirectポータルで実績を見ながら運営できる、と説明しています。決済・顧客接点の多くはプラットフォーム側、出荷は自社物流かZalando Fulfilment Solutions(ZFS)等の組み合わせ、という分担です。
社内・IR向けの振り返りでは、Partner Programは2011年頃に始まり、10年超の積み上げとして扱われています。2015年1月には英国でもPartner Programmeを開始し、当時すでに独・蘭・仏・スイス・伊など複数国で稼働していた、と公式発表にあります。転換は一発の切替ではなく、市場を増やしながら並行運用する形です。
重要なのは「Wholesaleをやめた」のではない点です。公式パートナーページは今もWholesale/Partner Program/Connected Retailの3モデルを並記しています。自社在庫で品質と体験を担保しつつ、パートナー出品で深さ(深さ=SKUの厚み)を足す、という二層構造です。
第2の転換:Connected Retail(店舗在庫の接続)
Connected Retailは、実店舗の在庫データをZalandoへつなぎ、店頭から直送するモデルです。公式手順は、(1)商品管理システムから在庫データをエクスポート、(2)店舗で梱包・出荷、(3)Zalandoが決済を処理し手数料を差し引いて送金、の3段です。オンライン専用倉庫を増やさずに、オフライン在庫を需要側へ寄せられます。
自社在庫→パートナー出品に続く「第2の転換」は、在庫の置き場所をさらに分散させる動きです。リテール(自社倉庫)だけでは届かない地域・サイズを、店舗在庫で埋める意図が読み取れます。一方、店舗オペレーションの出荷品質・リードタイムが顧客評価に直結するため、招待制・品質基準の維持が前提、と公式も明記しています。
日本企業が似た設計を入れるなら、「本社倉庫SKU」と「店舗連動SKU」を別KPIで見ます。店舗連動は売上機会と同時に、店舗スタッフの梱包負荷も増えます。接続前に1店舗パイロットの出荷遅延率を測るのが先です。
数値で見る転換:Partner GMVシェア34.3%
FY2024通期のIR資料では、Partner business GMVは52億3,900万ユーロ(前年49億1,000万ユーロ、+6.7%)、B2C GMVに占める比率は34.3%(前年33.6%)です。同じ表でRetail GMVは100億5,700万ユーロ規模です。つまり売上の過半は依然リテール側にありつつ、パートナー側がじわじわ厚くなっている、という段階です。
グループGMVは152億9,620万ユーロ(+4.5%)、売上高は105億7,250万ユーロ(+4.2%)でした。調整後EBIT(Earnings Before Interest and Taxes:利払い・税引前利益の調整値)は5億1,110万ユーロ、マージン4.8%(前年3.5%)です。パートナー比率の上昇単体が利益の全部とは限らない一方、IRはB2C粗利率の改善要因に「リテール粗利の改善とパートナー事業の拡大」を併記しています。
Business Update 2026では、パートナー事業シェアの長期目標として、2019年頃の約32%から2028年に40〜50%へ引き上げる図が示されています。転換のゴールは「全部マーケットプレイス」ではなく、パートナー比率のレンジ目標です。
粗利率が動く経路:在庫リスクの分担
FY2024のB2C粗利率は売上高比43.5%で、前年比2ポイント超の上昇と公式プレスで説明されています。自社在庫比率が高いほど、仕入・値下げ・返品在庫が粗利を押し下げやすい。パートナー出品では商品原価リスクの多くがパートナー側に残り、プラットフォーム側は手数料・サービス売上の比重が増えます(GMV定義上、手数料等は売上側・GMV本体とは別扱い)。
ただしパートナー比率が上がっても、顧客体験(配送・返品・表示品質)の責任はプラットフォームに残ります。公式は招待制で、品質・品揃え・物流能力などの基準を満たすブランドだけを受け入れる、と明記しています。在庫を外部化したからといって、顧客約束まで外部化できるとは限りません。
実務では「粗利率」と「欠品率」「返品率」を同じ四半期表に並べます。パートナー比率だけ見て粗利が上がったと断定すると、リテール側の値下げ抑制やマーケ効率の寄与を見逃します。IRも複数要因を併記しています。
2023〜24年:プラットフォームからエコシステムへ
FY2023決算では、Zalandoは戦略を「プラットフォーム」から、B2CとB2Bの二軸でファッション・ライフスタイルECのより広い領域を覆う「エコシステム」へ進化させる、と発表しました。B2Cでは顧客体験とパートナー事業、B2Bでは物流・ソフト・サービス(ZEOS等)を、Zalando上以外の取引にも開く方向です。
FY2024プレスでは、アクティブ顧客が5,180万人(+4.5%)と過去最高、B2B売上も9億5,260万ユーロ規模まで拡大しています。転換の因果は「出品枠を増やした」だけでは足りず、パートナーが自社ECや他チャネルでも同じ物流・ソフトを使える状態へ拡張している、と読めます。
日本企業が読むときのポイントは、マーケットプレイス転換=手数料ビジネスへの単純移行、ではないことです。自社在庫で体験を守り、パートナーと店舗で品揃えを広げ、B2Bでインフラを外販する、という三段階が同じIRストーリーに並びます。
転換が進む条件:招待制とポータル
Partner Programは誰でも申請できるオープンな市場ではありません。公式は品質とブランドセーフティのため招待制で、直接応募は受け付けない、と明記しています。転換の速度より、顧客側の体験水準を優先する設計です。
運営面ではzDirectがPartner Programのポータルです。分析・ベンチマーク・ツールを一箇所に集約し、パートナーが価格・在庫・キャンペーンを自ら調整できることが、比率を上げ続ける前提になります。ポータルなしに出品だけ増やすと、欠品・価格乱れが顧客に直撃します。
物流は自社出荷とZFS等の併用が可能、と公式が説明しています。転換期の実務は「すべて自社倉庫」か「すべてパートナー倉庫」の二択ではなく、SKUごとに出荷元を分ける運用です。
日本企業への示唆3点
1. 自社在庫GMVとパートナー出品GMVの比率を先にKPI化する。ZalandoはPartner business GMVのB2Cシェア(FY2024で34.3%)を開示しています。越境やモール出店を増やす前に、「自社仕入売上÷全体」と「出品・委託売上÷全体」を四半期で固定します。比率目標がないままSKUを増やすと、在庫と手数料の議論が混線します。
2. 在庫リスクの外部化と、顧客約束の外部化を切り離す。Partner Programでも配送・返品の顧客体験はプラットフォーム基準に縛られます。自社がモールに出す場合も、出荷遅延・欠品は自社の評価に残ります。「在庫を持たない=運用が楽」と決めず、SLA(Service Level Agreement:サービス水準合意)と欠品率を契約・週次表に残します。
3. Wholesale→出品→店舗連動の順で段階を切る。Zalandoは3モデルを同時に持ちつつ、歴史的には自社在庫→Partner→Connected Retailと拡張してきました。初日から3つを並走させると、買い付け・出品管理・店舗出荷の責任分界が曖昧になります。まず自社在庫でリピートが取れるカテゴリを固め、次に出品、最後に店舗連動、の順が安全です。
取り違えやすい読み方
一つ目は、34.3%を「売上の3分の1が手数料ビジネスだけ」と読むことです。Partner business GMVは商品流通額(税込GMV)のシェアであり、手数料売上そのものとは別です。二つ目は、Wholesaleが終わったと読むこと。公式は3モデル並記で、Retail GMVは依然として大きいです。
三つ目は、2028年の40〜50%目標を「今年すぐ半分」と読むこと。2019年頃の約32%から緩やかに上がる計画です。四つ目は、粗利率改善をパートナー比率だけの成果と断定すること。IRはリテール粗利改善も併記しています。
五つ目は、招待制を無視して「誰でも出店できる欧州Amazon」と社内資料に書くこと。品質ゲートがある点が、転換の速度と引き換えの設計です。
今週の一手:在庫モデル×GMVシェアの1行表
今週の1点は、「期間/自社在庫売上/パートナー出品売上/シェア%/粗利率/欠品率/確認日」の1行表を、自社または競合1社だけ作ることです。ZalandoのFY2024行(Partnerシェア34.3%、B2C粗利43.5%)を参考列に置き、自社行のシェア列が空のまま「マーケットプレイス強化」と書かないようにします。
表ができたら、前四半期からシェアが動いたかだけを見ます。動いていない週は、出店数の前に欠品と返品を直します。更新担当は1名、定義メモに「GMVか売上か」「税込か税抜か」を必ず残します。
翌週は、店舗連動SKUがある場合だけConnected Retail相当の列を足します。列を増やすのはシェアが2四半期連続で動いてからで十分です。
よくある質問
Q. Partner business GMVシェアとは何ですか?
A. パートナー事業のGMVをB2C GMVで割った比率です。FY2024は34.3%(Partner GMV 52億3,900万ユーロ)、前年は33.6%とIR資料に開示されています。
Q. WholesaleとPartner Programの違いは?
A. WholesaleはZalandoが仕入れて在庫を持ち物流・CSまで担うモデル。Partner Programはパートナーが在庫・価格・品揃えを主導し、マーケットプレイスとして販売するモデルです。
Q. 2028年の目標は何ですか?
A. Business Update 2026では、パートナー事業シェアを2019年頃の約32%から2028年に40〜50%へ引き上げる目標が示されています。
Q. 日本企業が先に決めるべき指標は?
A. 自社在庫売上とパートナー出品売上の比率です。出店数より先にシェアと欠品率を同じ四半期表に載せます。
出典
- Zalando SE「Full Year / Q4 2024 Publication」(Partner business GMV 5,239百万ユーロ・34.3% of B2C GMV、Retail GMV、粗利要因の説明)
- Zalando Corporate「Zalando Sees Accelerating Growth… Full Year 2024 Results」(2025-03-06:GMV・売上・調整後EBIT・アクティブ顧客・B2C粗利43.5%)
- Zalando SE「Business Update 2026 / APC Master Deck」(パートナーシェア約32%→2028年40–50%の目標図)
- Zalando Corporate「Partnership models」(Wholesale / Partner Program / Connected Retailの公式説明・招待制・zDirect)
- Zalando Corporate「Zalando Launches Partner Programme in the UK」(2015-01-27:英国展開・既存市場での稼働)
- Zalando Corporate「Full Year 2023 Results」(エコシステム戦略・B2C/B2B二軸の発表)
調査時点:2026年9月。会計定義・GMV脚注はIR資料を優先します。本番前に最新IRを再確認します。
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