海外だけ表示が遅い|日本オリジン直配信を数字で分解する
CrUXでは全オリジンの約56%がCWV良好。HTMLのCDN利用はモバイルで35%。日本サーバー直配信のまま海外へ出すと、LCPのボトルネックが先に見えます。国×測定URL×CDNの1行表から始めます。
実務ガイド

「日本では速いのに、海外の見込み客だけ離脱する」——この訴えの半分は、体感ではなく測定の単位がずれていることです。Chrome UX Report(CrUX)の2026年1月データでは、全オリジンのうち約55.7%がCore Web Vitals(CWV)3指標を良好と判定されています。HTTP ArchiveのWeb Almanac 2025では、モバイルのHTMLリクエストのうちCDN経由は35%にとどまります。本記事では一次開示の数字を先に分解し、越境サイトが先に埋める「国×測定URL×CDN」の1行表をわかりやすく解説します。
表:まずCWVとCDNの数字を並べる
| 指標 | 値 | 出典・時点 | 読み方の注意 |
|---|---|---|---|
| CWV良好(全オリジン) | 55.7% | CrUX 2026年1月 | LCP・INP・CLSの3つが同時に良好 |
| LCP良好(全オリジン) | 68.3% | 同左 | 読み込み。しきい値は75パーセンタイルで2.5秒以下 |
| INP良好 | 87.1% | 同左 | 操作応答。200ミリ秒以下 |
| CLS良好 | 80.9% | 同左 | レイアウトのずれ。0.1以下 |
| HTMLのCDN利用率(モバイル) | 35% | Web Almanac 2025 | サードパーティ71%・サブドメイン52%より低い |
| 上位1,000サイトのCDN | 71% | 同左(CrUX順位) | 人気サイトほどCDN導入率が高い |
同じ「速度」でも、ラボ(PageSpeed Insightsのラボ)とフィールド(CrUXの実ユーザー)は別物です。海外拠点の不満をラボの日本回線スコアだけで否定しない方が安全です。表の右端が空の行は、提案書に載せません。
CWVを分解する:読み込み(LCP)が通過を下げやすい
Googleが公開するしきい値は、LCP 2.5秒以下・INP 200ミリ秒以下・CLS 0.1以下です。いずれも実ユーザー分布の75パーセンタイルで判定します。3つが同時に良好でないと、CWV全体は「良好」になりません。
CrUXの2026年1月リリースノートでは、良好LCPは68.3%、良好INPは87.1%、良好CLSは80.9%、3指標すべて良好は55.7%です。LCPの通過率が相対的に低く、読み込み側が全体の通過を下げやすい、という読み方ができます。INPやCLSだけ見て「速い」と書かない方が安全です。
月次のCrUXは、データ収集月と公開日がずれます。社内表には「データ月/公開日/確認日」を残します。古い月の通過率を、今日の改善効果と混ぜないでください。
フィールドデータが足りないオリジン(アクセスが少ない国別サブドメインなど)は、CrUXに載りません。載らないから速い、ではなく、測定不能です。その場合は合成測定(対象国の測定地点)を別行にします。合成は条件が固定されるので、フィールドの代替ではなく補完です。
社内では「CWV担当」をインフラだけに置かない方がよいです。LCP画像の差し替えはマーケティング、タグ追加は広告、HTMLのキャッシュ可否は開発——責任が分かれるからです。表の確認日列の隣に、担当列を1つ足すだけで会議が短くなります。
CDNを分解する:HTMLが一番CDNに乗りにくい
Web Almanac 2025(HTTP Archive)は、モバイルのリクエストについて、サードパーティ資源のCDN利用率71%、サブドメイン52%、HTML 35%と整理しています。画像やスクリプトより、HTML本体がオリジン直のまま残りやすい、という構造です。
人気度別では、上位1,000サイトのCDN導入が71%、上位1万が70%、上位10万が62%、上位100万が49%、上位1,000万が35%と下がります。規模の小さいサイトほど、HTMLをエッジに載せきれていない、という傾向です。
プロトコルでも差が出ます。同章は、モバイルHTMLでCDN経由のHTTP/3が29%・HTTP/2が69%・HTTP/1.1が2%、一方オリジン直ではHTTP/3が実質0%・HTTP/2が79%、と書いています。日本のデータセンターから遠い国のユーザーほど、接続確立の往復回数が体感に効きます。HTTP/3やエッジ終端は、その往復を減らす側の話です。
ただし「CDNを入れた=海外が速くなる」と断定しません。キャッシュできない動的HTML、認証付きページ、国別のリダイレクト連鎖は、エッジがあっても遅いままです。表には「HTMLキャッシュ可否/エッジ終端のみ/未導入」の三択を置きます。
越境でずれる単位:日本ラボと海外フィールド
日本のオフィス回線でラボ測定すると、東京オリジンまでの往復は短く見えます。同じページを、シンガポールやフランクフルトの実ユーザー分布で見ると、LCPの75パーセンタイルがしきい値を超えることがあります。問題は「サーバーが壊れた」ではなく、比較単位が違うことです。
分解の手順は3つです。1つ目は測定対象URL(トップ/商品/LP)。2つ目は国・デバイス(CrUXの国別・モバイル)。3つ目は配信経路(日本オリジン直/CDNエッジ/画像CDNのみ)。空欄は推定で埋めません。
画像のLCP要素が日本のオリジンから直配信だと、CDNを「入れたつもり」でも効果は薄いです。静的ドメインだけCloudflare、HTMLとヒーロー画像は東京——この混在が海外だけ遅い典型です。所有者(どのホストがLCP画像を返すか)を1行に書きます。
第三者タグ(チャット・タグマネ・広告)もINPを押し下げます。AlmanacはCDNが常にINPを良くするとは限らない、という文脈も示します。速度改善の会議で、マーケタグの追加とCDN導入を同じセルに混ぜない方が安全です。
国別ドメインを増やした直後は、CrUXのサンプルが足りず「データなし」が続きます。その週は合成測定の行だけでも埋め、出稿を止めない/止めるの判断材料にします。データなしを「問題なし」と読み替えるのは禁止です。
取り違えやすい点
取り違え1は、日本ラボの緑スコアを海外のフィールド品質と同一視すること。取り違え2は、画像CDNだけ入れて「CDN完了」と書くこと。取り違え3は、CWV良好率55.7%を自社のKPI目標にそのまま置くこと(業界平均であり、自社URLの代替ではない)。取り違え4は、CrUXに載らない国別サブドメインを「問題なし」と読むこと。
取り違え5は、HTTP/3対応を宣言しただけで、対象国の実ユーザーLCPが改善したとみなすこと。取り違え6は、「1秒遅れると売上が○%落ちる」系の古い二次推計を、出典年なしで使うことです。本稿ではその推計を使いません。
切り分けの質問は3つです。「どの国のどのURLか」「フィールドかラボか」「HTMLとLCP画像はどこから返っているか」。
今週の実務1点:国×測定URL×CDNの1行表
今週やる1点は、次の1行です。「国/デバイス/測定URL/CrUX有無/HTML配信/LCP画像ホスト/確認日」。例:「SG/mobile//en/product/a/CrUXあり/東京オリジン直/img.example.com(東京)/2026-08-21」。
空欄の「HTML配信」は「未確認」と書き、広告出稿の前に埋めます。未確認のまま「海外向けLPを増やす」だけが走る状態を止めます。週次で未確認行の件数を数え、ゼロになるまでマーケ会議の冒頭に残します。
表ができたら、開発・インフラ・マーケティングで同じファイルを共有します。CDN契約の稟議と、測定URLの一覧が別ファイルだと、改善前後を比較できません。確認日が古い行は、次のCrUX月次が出たら上書きします。
改善の順番:測る → 経路を直す → 画像を直す
順番を逆にすると、デザイン改修だけが進み、経路の往復が残ります。先にフィールドで悪い国・URLを特定し、次にHTMLとLCP画像の配信元を揃え、そのあとで画像重量と優先度(fetchpriority等)を触ります。
Almanac 2025は、LCP画像への`fetchpriority="high"`がモバイルで約17%に広がった、とも触れます。優先度指定は有効ですが、東京から遠いユーザーへの往復そのものは消しません。経路と優先度はセットで見ます。
エッジキャッシュが難しい会員ページは、「公開LPだけエッジ」「会員はオリジン」と分けて表に書きます。全部を同じCDN設定に押し込むと、キャッシュ事故か、効果なしかのどちらかが起きやすいです。
社内説明の型:平均ではなく自社URL
経営向けには「世界の55.7%が良好」より、「対象国Aの商品URLのLCP(p75)が○秒/しきい値2.5秒」の方が動きます。平均は背景、自社URLが議題です。
背景としてAlmanacの「HTML CDN 35%」「上位サイトほどCDN」を添えると、「うちだけ特殊」ではなく「構造的にHTMLが残りやすい」と説明できます。それでも決裁の根拠は、自社のフィールド行です。
改善後も同じ1行表で追います。CDN導入日・キャッシュ設定変更日・画像ホスト変更日を列に足すと、どの変更が効いたかが見えます。効いていない変更は、次のスプリントで外します。
週次の読み上げは「悪い国が何件か」だけでも足ります。件数を減らせた週は、経路変更と画像変更のどちらが効いたかを1行で残します。残さないと、翌月に同じ議論が戻ります。
よくある質問
Q. Core Web Vitalsのしきい値は何ですか?
A. LCPは2.5秒以下、INPは200ミリ秒以下、CLSは0.1以下です。実ユーザーの75パーセンタイルで、3つ同時に良好である必要があります。
Q. HTMLのCDN利用率はどのくらいですか?
A. Web Almanac 2025では、モバイルのHTMLリクエストのうちCDN経由は35%です。サードパーティ資源の71%より低く、HTMLがオリジン直に残りやすい構造です。
Q. 日本でPageSpeedが緑なら海外も大丈夫ですか?
A. いいえ。ラボとフィールド、日本回線と海外ユーザー分布は別です。対象国のCrUX(または合成測定)で確認します。
Q. 今週やる1点は何ですか?
A. 国×測定URL×HTML配信×LCP画像ホストを1行表にし、未確認を残さないことです。
出典
- Chrome UX Report Release notes(2026年1月データ:CWV 55.7%/LCP 68.3%/INP 87.1%/CLS 80.9%)
https://developer.chrome.com/docs/crux/release-notes - HTTP Archive Web Almanac 2025「CDN」章(HTML CDN 35%・上位1,000で71%等)
https://almanac.httparchive.org/en/2025/cdn - Google web.dev / Core Web Vitals しきい値(LCP・INP・CLS)
調査時点:2026年8月。二次の「1秒で売上○%」推計は不採用。自社URLのフィールド測定を正とする。
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