保証書を日本語のまま渡していないか——海外向け保証・アフターサービス方針の未整備が招く信頼損失
海外販売の保証は日本語のままでは通りません。EU法定保証2年・シンガポールの推定期間・現地語サポートの調査を踏まえ、越境で最低限そろえる保証方針を解説します。
実務ガイド

海外向けの保証・アフターサービスが日本語のまま、または窓口が日本時間だけだと、購入後の信頼が先に崩れます。法定保証の期間は国・地域で違い、現地語のサポート有無は再購入意向にも効きます。本記事では、EU・シンガポールなどの一次ルールと調査数字を先に置き、越境ECで最低限そろえる保証方針の作り方をわかりやすく解説します。
まず確認する3点(期間・言語・窓口)
| 確認項目 | 見る場所 | よくある穴 |
|---|---|---|
| 法定保証の期間 | 仕向国の消費者法制 | 日本国内の感覚のまま「1年」と書く |
| 保証書・FAQの言語 | 同梱PDF・サイト・モールページ | 日本語のみ、機械翻訳のまま |
| 問い合わせ窓口 | メール/チャット/電話の受付時間 | 日本営業時間のみ・英語不可 |
この3点を先に埋めてから、返品特約や有償延長保証の文言を足します。順序が逆だと、広告の「安心の保証」が現地では法定最低ラインを下回ります。
越境ECでは、配送遅延と保証クレームが同じ受信箱に混ざります。件名が「warranty」「保証」「RMA」のものを別フォルダに分けるだけでも、初回返信が早くなります。窓口の言語と受付時間は、商品ページと同じ言語で書いておくと、購入前の期待と購入後の体験がずれにくくなります。
なぜ日本語の保証書がそのままでは足りないのか
保証書は、故障時に誰が・何を・何日以内に直すかを読む契約の要約です。現地の購買や税関後の開封では、日本語のPDFは読まれません。読まれないと、レビューは「連絡が付かない」に寄り、再購入の候補から外れます。
さらに、日本の特定商取引法の通信販売ルールは、国外の者に対する販売には原則として適用されない、と整理されることがあります(特定商取引法第26条第1項第2号)。国内向けの返品特約をそのまま海外向けにコピーしても、相手国の法定保証が別に立ちます。コピーではなく、仕向国ごとの最低ラインを先に取る必要があります。
B2B輸出とB2C越境でも、保証の読み手が違います。卸や代理店向けは契約書の瑕疵担保と修理部品のリードタイムが主です。一般消費者向けは、法定保証とレビューが同時に動きます。同じSKUでも、チャネルごとに保証ページを分ける方が、現場の返信は速くなります。
EU:法定保証は最低2年(Directive 2019/771)
EUの売買契約指令(Directive (EU) 2019/771)では、売主は、引渡し時に存在し、引渡しから2年以内に明らかになった不適合について責任を負う、と定められています。European Consumer Centres Network(ECC-Net)も、EU・ノルウェー・アイスランドでは最低2年の保証が無償で付く、と案内しています。加盟国はそれより長い保護を国内法で置けます。
同指令の要約では、最初の1年は消費者が「引渡し時に欠陥があった」ことを証明しなくてよい、とされています。商業保証(メーカーや販売店の任意保証)は、法定保証の代わりにはなりません。保証文言には、法定の救済があること、保証者の名称・住所、請求手順を平易な言葉で書く必要があります。
欧州向けに「保証1年・日本語のみ」と書くと、法定の2年と衝突しやすいです。まず法定2年を満たす窓口を作り、その上に有償延長を重ねる方が安全です。
デジタル要素付き商品(ファームウェア更新が続く機器など)では、供給期間が2年を超える契約なら、その供給期間中の不適合にも責任が及ぶ、と指令は整理しています。IoTやアプリ連携製品を売る場合は、「本体保証1年」だけで足りるか、更新期間の約束も合わせて確認してください。
シンガポール:欠陥の推定はおおむね6か月
シンガポールの消費者保護(公正取引)法(CPFTA)のいわゆるレモン法では、引渡しから6か月以内に欠陥が出た場合、引渡し時に不適合があったと推定する、という仕組みがあります。救済は修理・交換が先で、それが難しい場合に減額や解除へ進みます。CASE(消費者協会)も同趣旨を案内しています。
EUの「2年」と、シンガポールの「6か月推定」は、期間の見え方が違います。同じ英語圏でも、保証ページを1枚にまとめると、どちらのルールか分からなくなります。仕向国ごとにページを分けるか、国名を見出しに出してください。
CASEの案内では、レモン法はサービスやB2B取引には及ばない、とも整理されています。業務用機器を一般消費者向けサイトで売っている場合は、対象外のつもりで書かない方が安全です。対象かどうかを曖昧にすると、クレーム対応が長くなります。
現地語のサポートは再購入に効く
CSA Researchの「Can't Read, Won't Buy」系調査(2020年、消費者8,709人・29か国)では、カスタマーケアが自分の言語だと、同じブランドをまた買いやすいと答えた人が75%でした。英語が得意な層でも60%が自国語のケアを好む、とブログ要約にあります。保証書が日本語だけだと、故障時の最初の一文が既に読めません。
レビュー評価も、到着後のサポート言語で割れます。「商品は良いが、問い合わせが日本語のみ」は、星を下げやすい典型です。越境では、保証期間の数字だけでなく、問い合わせ言語と返信の目安時間を同じページに書いてください。
CSAの調査は購入前のローカライズにも触れており、自国語の情報がある方を選ぶ人が多い、と要約されています。保証ページは購入後の文書ですが、購入前に読まれるFAQでもあります。カート近くに「Warranty / Returns」へのリンクが無いと、英語が苦手な層は最初から買いません。
越境ECで最低限そろえる保証・サポート基準
最低ラインは次の5点です。
- 仕向国の法定保証期間を満たす(例:EU向けは最低2年を前提に設計)。
- 保証・返品の方針を現地語(少なくとも英語)で公開する。同梱はPDFでもよいが、注文確認メールからも辿れるようにする。
- 問い合わせ窓口を現地時間で設計する。日本の平日昼だけだと、相手の夜間にしか届きません。チャットボットでも、人間への引き継ぎ先を書く。
- 返送先と費用負担を先に決める。誰が国際送料を払うか、RMA番号の発行手順をFAQに書く。
- 商業保証と法定保証を混ぜない。任意の延長保証を売る場合も、「法定の救済は別にある」と明記する(EU指令の商業保証ルール)。
モール出店では、モール規約の返品期限と、自社の法定保証が二重になります。短い方に合わせると、法定を下回ることがあります。モールの画面文言と、自社サイトの保証ページを、出荷前に突き合わせる必要があります。
修理部品の在庫国も書いておくと、期待値が揃います。「日本から有償で送る」「現地パートナーが交換する」では、到着までの日数が違います。保証期間内の往復送料をどちらが負担するかも、同じ段落に置くと、クレームの往復が減ります。
方針が無いときに起きる信頼損失
典型は3つです。1つ目は、レビューで「連絡不能」が固定化する。2つ目は、決済会社やモールからのチャージバック・出品制限。3つ目は、代理店や卸が「保証が無いブランド」と判断し、次の発注を止めることです。
国民生活センターの越境消費者センター(CCJ)は、海外ショッピングのトラブル相談を受け付け、ことばや法律の違いで解決が難しいと説明しています。日本企業が売り手の場合も、相手国の消費者が同様の相談窓口を使う前提で、返信可能な窓口を先に用意する方が、紛争の長期化を防げます。
ECC-Netは、越境購入の紛争で事業者と折り合えないときに、無料の助言を案内しています。欧州向けに売るなら、自社の保証ページに「まず販売店へ連絡」と書き、連絡先が実際に応答することを出荷前にテストしてください。死んだメールアドレスは、法定保証の文言より先に信頼を壊します。
最初の3か月で揃える実務手順
最初の1か月は、仕向国トップ3の法定保証期間と返品ルールを表にする。EU・シンガポール・米国向けなど、既に売れている国からで十分です。次の1か月は、保証ページとFAQを英語(必要なら現地語)で公開し、問い合わせメールの署名に言語と返信目安を書く。最後の1か月は、同梱物の日本語保証書を止め、注文確認メールから保証ページへリンクする運用に切り替えます。
計測は、保証関連のお問い合わせ件数、初回返信までの時間、保証関連の低評価レビュー件数の3つで足ります。星の平均だけ見ると、原因が配送なのか保証なのかが分かりません。
社内では、営業が「保証は強い」と言った国と、サポートが実際に返信できる言語が一致しているかを月次で見てください。売上が伸びた国ほど、保証ページの更新が遅れやすいです。新規出店のチェックリストに、保証3点(期間・言語・窓口)を必須項目として入れておくと、後からの穴埋めが減ります。
注意点と次の一手
保証はマーケティングの飾りではありません。仕向国の法定最低ラインと、現地語で届く窓口がセットです。日本語の保証書をそのまま同梱する運用は、越境では信頼を削ります。数字と窓口が揃って初めて、広告の「安心」が購入後まで続きます。保証ページの更新日も残しておきましょう。
次の一手は、いま売れている国について「法定期間/保証ページ言語/窓口の受付時間帯」を1行ずつ書くことです。空欄がある国から、ページとメール署名を先に直す。ここが埋まると、保証はマーケティングの飾りではなく、購入後の信頼の土台になります。
EU向けの法定保証は何年ですか?
Directive (EU) 2019/771では、引渡しから2年以内に明らかになった不適合について売主が責任を負う、とされています。加盟国はより長い保護を置けます。
商業保証があれば法定保証は不要ですか?
不要にはなりません。ECC-Netも、商業保証は法定の消費者権利の代わりではない、と案内しています。
現地語サポートはどれくらい効きますか?
CSA Researchの2020年消費者調査要約では、カスタマーケアが自国語だと同じブランドをまた買いやすいと答えた人が75%でした。
越境で最低限そろえるものは?
仕向国の法定期間、現地語(または英語)の保証方針、返信可能な窓口、返送費用の分担、法定と商業保証の切り分けです。
出典(調査時点:2026年8月)
- EUR-Lex Directive (EU) 2019/771(売買契約の一定側面), eur-lex.europa.eu
- EUR-Lex 要約「Rules on contracts for the sale of goods between sellers and consumers」, eur-lex.europa.eu
- European Consumer Centres Network「Guarantees and Warranties」, eccnet.eu
- CASE(Singapore)「CPFTA & Lemon Law」, case.org.sg
- CSA Research「Does Language Matter?」(Can't Read, Won't Buy 2020要約), csa-research.com
- 特定商取引法ガイド/関連解説(国外の者への販売と通信販売規定), no-trouble.caa.go.jp
- 国民生活センター 越境消費者センター(CCJ), ccj.kokusen.go.jp
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