実務ガイド
越境ECで「英語ラベルがあればEU全体に出せる」と思っていると、通関保留や販売禁止で止まりやすいです。EUでは2024年12月13日に一般製品安全規則(GPSR)が施行され、販売国の公式言語での表示が求められます。カナダ・ケベック州では2025年6月1日から、商標内の一般語・説明語もフランス語表示が必要になりました。本記事では、EU・ケベックの要点、表示不備で止まる典型、越境ECが最低限そろえる多言語対応の基準をわかりやすく解説します。
誤解の芯は、「EUは英語で通る」という前提です。GPSR(General Product Safety Regulation)では、製品を提供する加盟国の公式言語で、警告表示・取扱説明・ラベル情報を消費者が理解できる形で示す必要があります。英語が公式言語なのはアイルランドとマルタに限られ、ドイツ・フランス・ポーランド等では現地語が原則です。
歴史的には、EC向けに英語のみのパッケージを大量生産し、各国倉庫から出荷する運用が広がりました。直近のGPSR強化で、EU域内代表者(Authorized Representative)の名称・住所も現地語表示が必要、という論点が追加され、英語だけの外箱では足りないケースが増えています。
因果は単純で、販売国=表示言語の組み合わせが増えるほど、SKU(在庫管理単位)ごとのラベル版数が増えます。版数を増やさずに多国展開すると、通関・小売・市場監視のどこかで止まります。
GPSRは2024年12月13日に施行され、旧製品安全指令を置き換えました。消費者向け製品全般を対象に、警告・説明書・ラベル上の製品情報・連絡先等を、提供する加盟国の言語で理解可能にすることが求められます。非EU事業者は、パッケージにEU域内代表者の名称・住所を載せる必要があり、これも販売国の言語で示すのが安全側です。
国ごとの例は次のとおりです(2026年8月時点の整理)。ドイツ販売=ドイツ語、フランス=フランス語、ベルギー=地域によりフランス語・オランダ語・ドイツ語、フィンランド=フィンランド語とスウェーデン語。EU27か国を一括カバーするには、最大24言語クラスターが必要になる、という見方が一般的です。
食品・化粧品・医療機器等は、GPSRに加えて各専門規則の表示要件が上乗せされます。越境EC事業者は、まず「自社カテゴリがGPSR単独か、専門規則もかかるか」を1行で固定します。固定しないと、化粧品成分表だけ直して、警告表示が抜ける、という漏れが起きます。
ECモールが求める「CEマーク+現地語説明」の組み合わせは、国によってチェック項目が違います。ドイツ向けにフランス語だけ載せたケースは、表示言語の不一致として差し戻されやすいです。販売国コード(DE/FR/PL等)とラベル言語を同じ行に書く習慣が有効です。
ケベック州のフランス語憲章(Charter of the French Language)とBill 96に基づく最終規則は、2025年6月1日から商品表示の強化条項が施行されました。製品・容器・包装・同梱書類の表示は原則フランス語が基準で、他言語をフランス語より目立たせたり、有利な条件で提供してはならない、と整理されています。
2025年6月1日以降、カナダ商標法上の「認められた商標」であっても、商標内の一般語(generic term)や説明語(description)はフランス語訳を製品本体、または恒久的に取り付けた媒体に表示する必要があります。製品名そのものや企業名、原産地名称等は例外として他言語のみが許容される場合があります。Office québécois de la langue française(OQLF)の公式説明(2025年8月27日更新)が一次の目安です。
2025年6月1日以前に製造された在庫には、条件付きの猶予(2027年6月1日まで等)が設けられています。新規ロットからはフランス語版を分岐させないと、ケベック向けチャネルで販売停止リスクが上がります。
カナダ国内の他州(オンタリオ等)とケベックを同一SKUで扱う場合、ケベック向けだけフランス語ブロックを追加する二段ラベルが現場で使われます。全国一律の英語パッケージは、ケベック販売にはそのまま使えません。チャネル別SKUに分けるか、外装にケベック専用ステッカーを恒久的に貼るか、を早めに決めます。
公開事例として、EU市場監視当局は、現地語の警告・説明がない製品の回収・販売禁止を命じることがあります。越境ECの現場では、次の3パターンが多いです。
①通関保留——成分表・警告・代表者住所が販売国語でない。税関・食品衛生当局が書類と実物を照合し、通関を止める。②小売・ECモールの出品停止——Amazon等のコンプライアンスチェックで、GPSR代表者情報や言語不足を指摘される。③B2B取引先からの受入拒否——卸が現地語ラベルなしの入荷を返品し、支払保留になる。
いずれも「製品そのものが危険」とは限りません。表示と書類の形式が販売国要件を満たしていない、という停止です。物流コスト(再ラベル・返送・廃棄)が本体価格を上回ることもあります。
停止後の復旧は、正しいラベル版での再出荷と、保留在庫の仕分けから始まります。保留在庫を通常棚に戻す前に、版IDを貼り替えないと同じ停止が再発します。復旧チェックリストに「版ID写真1枚」を入れるだけで、再発率は下がりやすいです。
最低ラインは、国別SKU表を作ることです。列は販売国/必須言語/警告・成分・代表者の要否/ラベル版(SKU-ID)/確認日の5つ。最初の行は、実際に出荷している国だけでよいです。全世界27言語を一度に作らない。
次に、マスター原稿を1言語(通常は英語)で持ち、販売国ごとに翻訳済みラベルデータ(PDFまたは印刷指示)を紐づけます。倉庫出荷前に、ピッキングリストとラベル版IDを突合します。版IDが空の行は出荷停止、とルール化します。
翻訳は「全項目一括」より、警告・成分・代表者・保証書の4ブロックに分けて管理すると差分更新が楽です。法改正で代表者欄だけ変わったとき、全言語の成分表まで再印刷しなくて済みます。ブロック単位の版番号(例:WARN-de-003)を付ける運用が現場で回りやすいです。
ケベック向けは、商標内の一般語・説明語のフランス語訳有無を別列にします。EU向けは、GPSR代表者の名称・住所が現地語で載っているかを別列にします。化粧品・食品は、専門規則の成分表・栄養表示をさらに別列にします。
EUでは、多くの国で現地語と他言語の併記は可能な場合があります。問題は「現地語が無い」ことです。英語だけ、または現地語より英語が大きい配置も、加盟国によっては不適合になり得ます。
ケベックでは、商標全体をフランス語に直す必要はなく、一般語・説明語のフランス語訳を同等の目立ち方で載せる、という整理です。商標だけ英語、説明は英語のみ、というパターンが2025年6月以降の典型NGです。
社内FAQで「英語併記OKか/英語のみNGか」を国別に1行ずつ書いておくと、デザインと法務の往復が減ります。FAQは法務の最終判断ではなく、出荷停止のトリガーとして使います。トリガーが無いと、現場は「とりあえず出す」に戻ります。
多言語対応は、デザインだけでなく倉庫のピッキングルールまで伸ばす必要があります。WMS(倉庫管理システム)のSKUマスタに「ラベル版ID」と「必須言語」を載せ、出荷指示書に版IDを印字します。版ID不一致のピックは、梱包前に止めます。
3PL(物流委託先)に委ねる場合、SLA(サービスレベル合意)に「販売国別ラベル版の検品」を1行入れます。委託先の標準作業だけでは、英語版のままEU向けに出荷されることがあります。初回出荷前に、サンプル1箱の実物写真と版IDを照合する受入テストを置きます。
返品・再ラベルはコストが高いです。通関保留より前に、倉庫出口で止める方が総コストは小さくなりやすいです。版IDが空のSKUは、EC上の販売可否と連動させ、在庫はあるが販売不可、という状態を可視化します。
実務の第一歩は、今週中に販売国リストを洗い出し、上記5列の表の先頭10行を埋めることです。埋められない行は、その国への新規出荷を止めます。止めないと、通関保留のコストが表より先に発生します。
表が埋まったら、ECカートの販売可能地域設定と倉庫の出荷可能地域を同じリストに同期します。カートだけドイツ販売可・倉庫は英語版のみ、というズレが最も多い停止原因です。同期は週1回でよいので、販売国追加のたびに必ず走らせます。
将来のシナリオは2つです。一つは、EU・カナダで表示要件がさらに細分化され、ECプラットフォーム側の自動チェックが厳しくなる世界。もう一つは、多言語ラベルをクラウド印刷・地域倉庫で都度生成する運用が標準化する世界です。どちらでも、販売国と言語の対応表は残ります。
Q. 英語ラベルだけでEUに出荷できますか?
A. 原則として足りません。販売国の公式言語での表示がGPSRで求められ、英語が公式なのはアイルランドとマルタに限られます。
Q. GPSRはいつから適用ですか?
A. 2024年12月13日施行です。非EU事業者のEU域内代表者表示もパッケージ要件に含まれます。
Q. ケベックの2025年6月改正で何が変わりましたか?
A. 商標内の一般語・説明語のフランス語表示が必要になりました。製品名・企業名等は例外となる場合があります。
Q. 最低限何から始めればよいですか?
A. 販売国・必須言語・ラベル版ID・確認日の表を作り、版IDが空の国には出荷しないルールを置きます。
調査時点:2026年8月。国・品目ごとに追加規制あり。出荷前に販売国当局・専門家で確認してください。