PCサイトのまま海外展開した代償——モバイル比率を見誤るUX設計

海外の「モバイル比率」はウェブ交通量・EC注文・アプリ売場で数字が違います。StatCounterと注文比率を分け、UPIやフォーム桁数まで、PC前提サイトが止まる地点を整理します。

実務ガイド

PCサイトのまま海外展開した代償——モバイル比率を見誤るUX設計
PCサイトのまま海外展開した代償——モバイル比率を見誤るUX設計

海外ECの失敗は「スマホ対応していません」より先に、「どのモバイル比率を見たか」で起きます。StatCounterの2026年7月値では、インドのウェブはモバイル66.42%、日本は41.75%、インドネシアはモバイル40.8%でデスクトップが多数です。同じ東南アジアでも、フィリピンの電子商取引ではモバイル経由が約78%とされ、エジプトでは注文の約78%がモバイル発です。Google・Temasek・Bainのe-Conomy SEA 2025は、ASEANデジタル経済GMVが2025年に3,000億ドル超、電子商取引は1,850億ドル、うち動画コマースが約25%と見ます。PC幅のサイトを英訳して出すと、アプリ売場と現地決済の前で止まります。

当コラムで注目する用語
  • ウェブ交通量:ブラウザのページビュー比率。StatCounterなどが計測。アプリ内の売場は含まない。
  • モバイルコマース:スマホ経由のEC取引。アプリ注文を含むことが多く、交通量より高く出やすい。
  • UPI:インドの統一決済インターフェース。銀行口座間をスマホアプリで即時送金する仕組み。
  • Intent決済:サイトから決済アプリを直接起動する方式。手入力のVPAより誤入力が少ない。
  • ビューポート:スマホ画面に合わせて表示幅を指定する設定。無いとPCレイアウトが縮小表示になる。
  • カゴ落ち:カートに入れたあと購入完了しないこと。Baymard集計の平均は70.22%。
実務の結論(2026年8月時点)

国を決めたら数字を3列にする。①ウェブのモバイル比率(StatCounter)、②EC注文の端末、③現地で人が買う場所(Shopee等のアプリか自社サイトか)。日本のデスクトップ多数を前提にしたナビ・ホバーメニュー・カード番号手入力を、インドやASEANにそのまま出さない。先に直すのはビューポート、タップ、現地決済、住所桁、合計金額の先出し、実機1台での購入テスト。

結論——「モバイル比率」は交通量・注文・アプリで数字が違う

日本本社が見る分析画面は、自社PCサイトのセッションです。そこがデスクトップ6割なら、「海外もPCで十分」と見えやすい。しかし海外の購買者は、同じ会社のサイトではなくShopeeやTikTok Shop、自社アプリ、現地ウォレットの中で買います。ウェブ交通量はサイトの訪問端末、モバイルコマースは注文の端末、アプリGMVは売場そのものです。3つを足して1つの「モバイル比率」にすると、対策がずれます。PCサイトのレスポンシブ化は必要ですが、それだけではアプリ売場の決済と入力慣行に届きません。先に固定するのは、どの数字で合格とみなすかです。

StatCounter——2026年7月、インド66.4%、日本はモバイル41.8%

StatCounter Global Statsのデスクトップ対モバイル(2026年7月)は次です。インドはモバイル66.42%・デスクトップ33.58%。フィリピンはモバイル60.76%・デスクトップ39.24%。世界合計(2026年7月)はモバイル53.37%・デスクトップ46.63%で、ほぼ拮抗しています。日本は逆で、デスクトップ58.25%・モバイル41.75%。この計測は、StatCounterを埋め込んだサイトのページビューです。タブレットは二区分だとデスクトップ側に寄ることがあり、アプリ内ブラウザやネイティブアプリの注文は原則入りません。日本の自社サイトがデスクトップ寄りなのは、この国のウェブ実態と近い。その感覚をインドやフィリピンの交通量に当てはめると、最初の画面から前提が違います。

インドネシアのウェブはデスクトップ多数でも、売場はアプリ側にある

同じStatCounterの2026年7月、インドネシアはデスクトップ59.2%・モバイル40.8%です。「東南アジア=スマホ100%」という印象とは合いません。ここで止めて「ではPCサイトでよい」とするのが、見誤りです。インドネシアの主戦場はShopeeやTikTok Shopのアプリであり、ウェブ交通量のデスクトップ多数は、オフィスやカフェのPC閲覧、計測対象サイトの偏り、アプリ外の情報収集を同時に拾っています。e-Conomy SEA 2025は、電子商取引GMVを2025年1,850億ドル、動画コマースをその約25%と見積もります。動画は縦画面のアプリで完結しやすく、自社PCサイトの横長バナーは、その導線の外にあります。交通量がデスクトップでも、注文がアプリなら、自社サイトは「比較用の仕様ページ」になり、カゴは現地アプリ側です。

フィリピンとエジプト——注文の約8割がモバイルという別の数字

交通量と注文を分けたあとに見るのが、国別の取引端末です。社内の海外市場整理では、フィリピンのモバイルコマース比率は約78%、越境ECは315億ペソ(前年比+25%)と置いています。エジプトでは注文の約78%がモバイル発で、代引きが注文の60〜70%を占める市場です。英国はモバイルコマース約65%、カード中心、と別の成熟型です。メキシコのある成長チャネルでは訪問の約98%がモバイル、という個別観測もありますが、これは国全体の公式値ではありません。使うときは「誰の、何の78%か」を残します。78%はStatCounterの60%と同じ現象ではありません。前者が注文、後者がウェブ閲覧です。広告の着地をPC幅のコーポレートサイトにすると、注文側の8割を取りこぼします。

東南アジアの動画コマースはEC GMVの約25%

Google、Temasek、Bain & Companyのe-Conomy SEA 2025(第10版)は、ASEANデジタル経済のGMVが2025年に3,000億ドルを超え、10年前の400億ドルから7.4倍、売上高は1,350億ドル(11.2倍)と見ます。電子商取引のGMVは1,850億ドル、売上高410億ドル。動画コマースは3年で5倍、2025年に電子商取引GMVの約25%。低単価・現地クリエイター・SNSから店への接続が理由です。PC前提のサイトは、この25%の導線(縦動画・プロフィールリンク・アプリ内決済)を持っていません。レスポンシブ化は「縮小表示できる」ことであり、「動画から3タップで払える」ことではありません。東南アジアに出すなら、自社サイトのモバイル化と、動画商圏のどちらを取るかを先に分けます。

カゴ落ち70.22%——モバイルで総額が見えないサイトが33%

Baymard Instituteが50件の調査を平均したオンラインのカゴ落ちは70.22%(2025年9月更新)。原因は1つではなく、長すぎる会計がその一つです。米国の買い物客の17%が「会計が長すぎる・複雑」で離脱したことがあり、理想の会計はフォーム要素12〜14個(入力欄だけなら7〜8)、一方で米国サイトの平均は23.48要素(入力欄14.88)です。モバイル専用の観測では、ベンチマークした大手50サイトのうち33%が、カード情報を求める前に注文総額を一度も出していません。タッチキーボードで住所を10欄以上打ったあと金額を知る流れは、テストで離脱の直接原因になりました。モバイルサイトの会計UXは63%が「普通以下」、良い評価は2%です。PCで通る会計を縮小しただけでは、この33%側に入ります。

決済——UPIは年2,285億件、手入力VPAはモバイルで詰まる

インドではカード番号の手入力が主経路ではありません。Worldline IndiaがNPCI(National Payments Corporation of India)統計をまとめた2025年暦年レビューでは、UPIは2,285億件(前年比+33%)、平均単価は1,437ルピーから1,314ルピーへ下がり、少額の日常払いに広がっています。加盟店側の接続は、国際カードのゲートウェイとは別のレールです。決済事業者はNPCI方針に沿い、2026年2月28日以降はモバイルでVPA手入力のCollectを止め、アプリ起動のIntentまたはQRへ移すよう案内しています。デスクトップではQRをスマホで読む流れが残ります。タイのPromptPay、シンガポールのPayNowも、QRとスマホアプリが本体です。エジプトのように代引きが過半の市場では、カード必須の会計そのものが拒否されます。日本の「クレジット一択・3Dセキュアのポップアップ」は、現地の主経路と一致しません。

住所と電話——桁・州・郵便番号を日本のフォームのまま出さない

日本の会計は、郵便番号7桁、都道府県プルダウン、電話はハイフン付き10〜11桁、氏名は姓・名の2欄、が前提になりやすい。インドは州とPIN(6桁)、住所はランドマーク記述が普通です。フィリピンは州・市・バランガイ、郵便番号は使わない注文も多い。中東・北アフリカは右から左の入力と国番号、メキシコはスペイン語の州名です。モバイルでは、半角英数のみ・全角カナ必須・ハイフン必須が、そのまま入力不能になります。SMSのワンタイムパスワードは、別アプリ切替でセッションが切れると戻れません。autofillとワンタイムパスワードの自動入力、国番号付きの電話欄、郵便番号が無い国では任意、が最低ラインです。PCの「綺麗な2カラム住所」は、Baymardがテストで誤読を確認した多カラムそのものです。

最低限直す8項目——viewportから現地決済まで

国別の数字を見たあと、自社サイトで先に直すのは次です。(1) viewport指定と、拡大せず読める本文サイズ。(2) 指で押せるタップ領域。ホバーで開くメガメニューは使わない。(3) 会計前に送料込み総額を出す(Baymardの33%問題)。(4) ゲスト購入。アカウント強制を外す。(5) 現地の主決済(UPI Intent、PromptPay、代引き、現地ウォレット)を、カードより上か並列に置く。(6) 住所・郵便・電話を対象国の桁と必須/任意に切り替える。(7) OTP後にカートが消えない。(8) 対象国の中位Android実機で、広告から購入完了まで1本通す。4G相当の回線で、ファーストビューが3秒以内に出るかも見る。これでアプリ売場の代替にはなりません。自社サイトを着地にする国だけ、この8つが広告費の前提になります。

90日——対象国の三層数字と実機テスト1台

90日でやることは狭いです。(1) 最初の1か国について、StatCounterの交通量、注文の端末、人が買う場所(自社/Shopee等)を1表にする。(2) 日本向けPCサイトの会計欄を、その国の住所・決済・言語に切り替えたモバイル版を1枚出す。(3) 中位Androidでテスト購入し、カゴ落ち地点を録画する。(4) 総額の先出しとゲスト購入を同じスプリントで直す。(5) アプリ売場が本体の国は、自社サイト改修より出店条件を先に読む。日本のデスクトップ58%を合格点にしたまま、インド66%や注文78%の国へ広告を出す90日は、クリック単価だけが残ります。数字の種類を分けた表が、UX改修の順番になります。

読み解きのポイント ①StatCounterはウェブ交通量でありアプリ注文を含まない ②日本はモバイル41.8%、インドは66.4%(2026年7月) ③インドネシアのウェブはデスクトップ多数でも売場はアプリ ④Baymard:カゴ落ち平均70.22%、総額未表示33% ⑤UPIは2025年2,285億件、モバイルはIntentが本体

PCサイトのまま出す代償は、デザインの古さではありません。交通量・注文・アプリのどれを見ているかを取り違え、現地の決済と入力桁を日本のフォームのまま出した結果です。比率の分母を固定した資料だけが、次の四半期の着地ページを動かせます。

よくある質問

Q. レスポンシブ対応していれば十分ですか?

A. 縮小表示できることと、現地決済・住所桁・アプリ売場で買えることは別です。交通量がデスクトップでも、注文がアプリなら自社サイトだけでは足りません。

Q. 東南アジアはみんなスマホ中心ですか?

A. ウェブ交通量ではインドネシアのようにデスクトップが多い国もあります。電子商取引の注文や動画コマースは別の数字です。国ごとに3列で見ます。

Q. インドでカード決済だけ用意すればよいですか?

A. 2025年のUPIは2,285億件です。モバイルではアプリ起動のIntentが主経路で、VPA手入力は誤りやすい、と決済事業者が案内しています。

Q. 最初に直すUXは何ですか?

A. ビューポート、タップ、会計前の総額、ゲスト購入、現地決済、住所・電話の桁、OTP後のカート維持、対象国の実機テストです。

UDXでは、国別の端末比率と現地決済・フォームを、越境の着地ページに落として設計します。

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主な出典

StatCounter Global Stats(Desktop vs Mobile:世界/インド/フィリピン/日本/インドネシア2026-07)/Google・Temasek・Bain & Company「e-Conomy SEA 2025」(デジタル経済GMV 3,000億ドル超、EC 1,850億ドル、動画コマース約25%)/Baymard Institute「50 Cart Abandonment Rate Statistics」(平均70.22%、2025-09更新)/Baymard「The State of Mobile Checkout & Form Usability」(総額未表示33%)/Baymard Checkout UX(モバイルサイト63%が普通以下)/Worldline India「India Digital Payment Report CY2025」(UPI 2,285億件)/Razorpay Docs(UPI Collectは2026-02-28以降非推奨、Intent/QRへ)/社内海外市場整理(フィリピンモバイルコマース約78%、エジプト注文約78%・COD 60〜70%、英国約65%。本文に内部パスなし)

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