Amazonに出しただけで満足していないか——マーケットプレイスとDTCの戦略選定ミス

Amazon出店と自社EC(DTC)では、顧客データと手数料の取り方が違います。米国・中国・東南アジアの公式料金と決算から、ハイブリッドの決め方を解説します。

実務ガイド

Amazonに出しただけで満足していないか——マーケットプレイスとDTCの戦略選定ミス
Amazonに出しただけで満足していないか——マーケットプレイスとDTCの戦略選定ミス

マーケットプレイス出店とDTC(自社EC)は、同じ「ネット販売」でも契約の相手が違います。前者は平台が顧客との窓口になり、後者は自社が注文の当事者です。本記事では、顧客データと手数料の差、米国・中国・東南アジアの公式数字、両方を使うときの決め方をわかりやすく解説します。

当コラムで注目する用語
  • マーケットプレイス:Amazon、天猫、Shopeeのように、平台が店舗を並べて決済まで預かる販売形態。
  • DTC(Direct to Consumer):自社サイトで顧客と直接契約する販売。自社ECと同義で使う。
  • 紹介料(referral fee):Amazonが出店者に課す、販売価格に対する割合。カテゴリで異なる。
  • コミッション:Shopeeなどが完了注文に課す手数料。取引手数料と別建てになる国がある。
  • 1P(自社販売):京東のように、平台自身が在庫を持って売る形態。3P(出店)と並ぶ。
  • ハイブリッド:発見はマーケットプレイス、リピートは自社EC、と役割を分ける運用。

マーケットプレイスとDTCは別の販売契約

マーケットプレイスでは、顧客は平台のアカウントで買います。返品、支払い、レビューのルールも平台が先に決まります。DTCでは、利用規約・決済・会員プログラムは自社のサイトが正本です。在庫SKUが同じでも、誰が契約当事者かが違います。

日本企業の海外販路でよく残るのは、「まずAmazonに出せば、あとは同じ」という読み方です。米国ではAmazonの検索需要は厚いです。ただし紹介料と、顧客メールの取り方が、自社サイトとは別物です。東南アジアで同じ型をShopeeに当てると、手数料の内訳が国ごとに分かれます。

顧客データは、注文の契約先で決まる

自社ECでは、注文確認のメールアドレスは自社のリストになります。再購入の案内、保証の更新、会員価格は、そのリストで回せます。マーケットプレイスでは、平台が購入者と出店者の間に入ります。

AmazonのSelling Partner API(Orders API v2026-01-01)では、購入者のメール(buyer.buyerEmail)は制限付きロールです。開発者向け文書は、Direct to Consumer Shipping ロールのFBM(出品者出荷)注文でのみ Yes、FBAでは No、と表にしています。FBAで売っても、購入者の実メールが自動で自社CRMに入る、という前提は公式と合いません。

購入者と話すときは、Buyer-Seller Messaging(匿名のエイリアス経由)が公式の保護された連絡手段です。Brand Registryに入ると、ブランドページや広告の道具は増えます。それは顧客名簿の移管ではありません。リピート設計(再購入メール、会員)を自社で回したいなら、DTC側に注文を残す必要があります。

手数料は売上の何割か

Amazon米国店の公式料金ページ(sell.amazon.com/pricing、2026年時点)は、販売プランと紹介料の二本です。Individualは1点あたり0.99ドル、Professionalは月39.99ドルです。紹介料はカテゴリ別で、合計販売価格(本体+送料+ギフト包装)に対する割合、または最低額の大きい方、と書いてあります。

例として、Home and Kitchen・Toys and Games・Sports and Outdoorsは15%(最低0.30ドル)です。ComputersとConsumer Electronicsは8%です。Beauty, Health, and Personal Careは10ドル以下が8%、それを超えると15%です。Clothing and Accessoriesは15ドル以下5%、15超20ドル以下10%、20ドル超17%です。FBAや広告は別料金です。

Shopeeシンガポールの出品者向け案内(2026年8月14日更新)は、コミッション、取引手数料、サービス手数料、送料を分けています。取引手数料の標準は、最終支払額の3.27%(GST込み)です。コミッションは2026年1月1日から改定、と書いてあります。新規は最初の120日、基本コミッション0%です。Mallと非Mall、Promo Xtra参加の有無で率が分かれ、非Mallの電子機器(スマホ等)は改定後11.99%(上限60シンガポールドル)など、カテゴリ表が並びます。公式の計算例では、元値110ドルの商品に値引きとクーポンが乗ったあと、コミッション・サービス・取引・送料などを差し引き、出店者受取57.41ドル、控除合計22.59ドル、と示しています。内訳はカテゴリとプログラムで変わります。

米国ではAmazonの紹介料が先に来る

米国向けに「まずAmazon」と決める理由は、検索の集客です。公式料金ページは「毎日Amazon.comを検索する数百万人の顧客の前に商品を置く」と書いています。獲得単価の安さを出店者が語る引用もありますが、これはAmazonの販促文であり、自社のCAC(顧客獲得費用)の実測ではありません。

Professionalプランは月39.99ドルに販売手数料が乗ります。Brand Registryに入らないと、強化ページやデジタルストアは使えない、と注記があります。紹介料15%帯のカテゴリでは、送料込みの販売価格の15%が先に落ちます。DTCなら決済代行の料率は別契約ですが、平台の紹介料そのものはありません。代わりに、広告・物流・サイト保守は自社負担です。

米国だけで完結するなら、Amazonで発見し、再購入は自社サイトへ誘導する、という役割分担が現実的です。誘導の導線(梱包内QR、保証登録、会員)を置かないと、FBAの注文はリピート設計に戻りません。

中国では天猫と京東の役割が違う

中国のネット小売は、出店型と自社販売型が並びます。アリババグループの2025年3月期は、タオバオ&天猫グループのカスタマーマネジメント収入(出店者向けの広告・手数料に相当)が3,223.46億元、前年比6%増です。同期の説明は、オンラインGMVの伸びとテイクレート改善が主因、としています。88VIP会員は2025年3月期四半期時点で5,000万人超、と決算資料が書いています。会長・CEOレターは、中国のインターネット利用者を11億人超、小売に占める電子商取引を約27%、と述べています。

京東の2025年通期は、連結純収入1兆3,090.85億元(前年比13.0%増)です。うち商品売上(ネットプロダクト)1兆238.02億元、マーケットプレイスおよびマーケティング収入1,071.31億元(同18.9%増)です。京東リテールはオンライン小売とオンラインマーケットプレイスの両方、とIRが定義しています。天猫が3P出店の手数料・広告で測られるのに対し、京東は自社販売の商品売上が大きい、という読み方ができます。中国で「Tmallに出せばJDと同じ」にはなりません。

越境で天猫国際や京東国際に乗る場合も、保税区・一般貿易・現地法人のどれで在庫を置くかが先です。DTCのWeChatや公式サイトは、会員と再購入の正本になり得ます。ただし決済と物流の現地要件は、平台出店とは別工程です。

東南アジアではShopeeの手数料が国ごとに違う

Sea Limitedの2025年通期(2026年3月3日発表)では、ShopeeのGMVは1,274億ドル、前年比26.8%増です。年間のアクティブバイヤーは約4億人、出品者は2,000万人、と会長兼CEOが述べています。ShopeeのGAAPマーケットプレイス収入は145億ドル(同33.9%増)です。2026年の社内目標は、年間GMVを前年比約25%伸ばし、調整後EBITDAを2025年の絶対額以上、です。2026年1〜3月期のGMVは373億ドル、前年同期比30.2%増です。

国別シェアの一次開示はこの決算にはありません。手数料は国のSeller Centreが正です。シンガポールではコミッションに取引手数料3.27%が乗り、Mallか否かで表が分かれます。インドネシアの出品者向け案内は、管理費・注文処理費・Mall向け支払手数料、と別の分類です。同じShopeeでも、シンガポールの表をインドネシアにコピーできません。

Lazadaはアリババの国際商業に含まれる平台です。シンガポールではShopeeと並んで検討対象になる、というのが現場の通例です。シェアの点数は調査会社で割れやすいので、本稿は決算のGMVと、各国Seller Centreの料金表を正にします。DTC(自社サイト)は、Shopeeの完了注文から顧客メールが自動では来ない、という前提で会員登録を別途取る必要があります。

両方を使うときの設計原則

ハイブリッドは、「全部の国で両方出す」ことではありません。発見需要が厚い市場ではマーケットプレイスを先に置き、再購入と保証・消耗品は自社ECに残します。初回の発見は平台、初回後の再購入は自社のリスト、です。

原則は3つです。1つ目は、SKUの価格を平台と自社で矛盾させないこと。平台のキャンペーン価格が自社より常に安いと、会員は平台に戻ります。2つ目は、顧客データの取り方を注文チャネルごとに書くこと。Amazon FBAはメールが来ない前提、Shopeeは完了注文の手数料が差し引かれたあと、自社ECは同意取得済みリスト、です。3つ目は、返品窓口を一つに見せないこと。平台の返品期限と、自社保証の期間が違うと、レビューが先に割れます。

広告費の配分は、新規獲得を平台内広告、既存客を自社メール/LINEに分けると、同じ予算を二重に使いません。平台内広告は紹介料の上に乗ります。自社リストの配信単価とは、比較の分母が違います。

出店前に決める3点

先に決めるのは、対象国の「主戦場の平台名」です。米国はAmazonの紹介料表、中国は天猫の出店か京東の1P/3Pか、東南アジアはShopeeの当該国Seller Centre、です。2番目は、その国で自社ECを持つかです。持たないなら、リピートは平台のフォロー機能と広告に依存します。3番目は、初回在庫の置き場所です。FBA、Shopee倉庫、保税、自社発送で、API上の個人情報の取れ方が変わります。

料金表は改定日が書いてあります。Amazon紹介料はカテゴリ表をSeller Centralで確認する、Shopeeシンガポールは2026年1月1日改定・一部カテゴリは2026年8月28日から1%減、と案内があります。稟議の数字は、画面のスクリーンショット日付を残してください。

よくある質問

Q. Amazonに出せば顧客リストは貯まりますか?

A. FBAでは購入者メールはAPI上も原則取れません。Messagingのエイリアス経由が公式の連絡手段です。リストを自社で回すならDTCの注文が必要です。

Q. 紹介料15%は高すぎませんか?

A. 米国AmazonのHomeやToysは公式表で15%です。Electronicsは8%です。カテゴリを確認せず「15%」で一律試算すると、家電と衣料でズレます。

Q. 東南アジアはShopee一本で足りますか?

A. Seaの2025年GMVは1,274億ドルと大きいです。ただし手数料は国の表が正です。シンガポールのコミッション+取引3.27%を、他国にそのまま使えません。

Q. 中国はTmallとJDのどちらですか?

A. 天猫はカスタマーマネジメント収入で測る出店・広告型、京東は商品売上が大きい自社販売型、とIRの科目が違います。商品カテゴリと在庫の置き方で選びます。

UDXでは、国ごとの平台料金と、自社ECの顧客データの取り方を分けてチャネルを設計します。

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主な出典

Amazon Sell on Amazon Pricing(紹介料・Professional 39.99ドル/月)/Amazon Selling Partner API Orders(buyer.buyerEmailのロール表)/Shopee Singapore Seller Education「Seller fees」(2026-08-14、コミッション改定・取引3.27%)/Sea Limited FY2025および2026年1Q決算(Shopee GMV)/Alibaba Group FY2025(2025年3月期)タオバオ&天猫 CMR/JD.com FY2025決算/調査時点:2026年8月17日。

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