実務ガイド
フィードに1本出してもらったことと、その映像を広告として使い続けることは、別の許諾です。使用期間、二次利用、独占、開示文言が空欄だと、配信停止や表示規制のあとで揉めます。本記事では、著作物と肖像の違い、日本のステマ告示、米英EUの開示ルール、MetaのPartnership Adsの許可を、契約前に揃える順でわかりやすく解説します。
起用契約でよく空くのは、「投稿してください」だけで終わる発注書です。公開された写真やリールは、創作した側に著作権が残るのが原則です。ブランドがダウンロードして、自社広告・LP・店頭サイネージに転用するのは、別の利用行為です。
例えば、投稿の公開期間が2週間なのに、広告マネージャで90日回し続けると、契約の外側に出ます。投稿を消しても、広告面に残っていることがあります。まずは「誰の何を、どこで、いつまで使うか」を1枚に書くことが大切です。
フォロワー数の選定ミスとは別の失敗です。選定が良くても、使用権が無いと配信を止めざるを得ません。本稿は契約の中身に限定します。無償の商品提供も、日本の運用基準では対価になり得ます。金銭が動いていないから二次利用は自由、という読みは通りません。
動画や写真は著作物です。複製し、ネットで公衆送信し、広告クリエイティブに編集する権利は、原則として創作者(多くの場合は本人または制作会社)にあります。契約で譲渡するか、利用許諾の範囲を書くか、どちらかが必要です。
画面に映っている本人の顔・声・名前は、著作権とは別に扱います。投稿用に撮った素材を、別キャンペーンの比較広告や値引きバナーに切り出すと、当初の趣旨から外れます。許諾の対象を「当該投稿のままの利用」と「切り出し・改変」に分けると、後からの差し替えが減ります。
第三者(通行人、店内の客、他ブランドのロゴ)が映る場合は、その権利も残ります。クリアできないカットは、広告転用の対象から外す条項が実務的です。BGMやフォントのライセンスが投稿用だけ、という制作会社の契約もよくあります。広告面に出す前に、素材リストとライセンス期限を突き合わせます。
| 項目 | 投稿そのもの | 広告転用(二次利用) |
|---|---|---|
| 典型の期間 | 公開日から○日、またはキャンペーン終了まで | 広告配信の開始〜終了日。投稿削除後も残るか |
| 媒体 | 指定アカウントのフィード/ストーリーズ/リール | Meta広告、YouTube、自社サイト、店頭、メール |
| 地域 | フォロワーの所在は制御しにくい | 広告の配信国を契約で固定できる |
| 改変 | 本人のキャプションとセットが前提になりやすい | 字幕・切り出し・他言語は別許諾 |
期間は「投稿が残っている間」と書かない方が安全です。本人が消しても、ブランド側の広告が残るからです。媒体は「SNS全般」より、アカウント名と広告アカウントIDまで書くと、代理店の使い回しを止められます。
地域は、日本向け投稿を米国面に出すと、開示ルールが変わります。配信国のリストを契約添付にすると、法務と運用が同じ表を見られます。
Metaは、かつてのBranded content adsをPartnership adsと呼んでいます。パートナー(クリエイター)のハンドルから広告を出す仕組みで、広告主が勝手にハンドルを借りることはできません。Instagramのヘルプは、コンテンツ単位の許可として、個別投稿のブースト許可やPartnership ad codeの共有を説明しています。
許可が無いと、広告マネージャ上でPartnership adを作れません。契約書に「広告転用可」と書いてあっても、アプリ側のトグルがオフなら配信できません。書面の許諾と、プラットフォームの許可を両方取る必要があります。
許可の粒度も違います。1本だけブーストできる内容単位と、アカウント単位の継続許可があります。継続許可は、期間終了後に撤回する手順まで契約に書くと、独占終了後の残留を防げます。
令和5年内閣府告示第19号は、2023年10月1日から施行されています。景品表示法第5条第3号に基づき、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」を不当表示とします。消費者庁の案内では、規制の対象は商品・サービスを供給する事業者(広告主)です。依頼を受けたインフルエンサー等の第三者は、この告示の規制対象ではありません。
だから開示しなくてよい、ではありません。広告主が「表示内容の決定に関与」し、かつ広告であることが判別困難なら、広告主が違反します。運用基準は、SNSへの依頼表示、対価(金銭に限らない経済上の利益)、ハッシュタグの海に「広告」を埋もれさせる方法などを、判別困難の例に挙げています。
明瞭になりやすい例として、運用基準は「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」などの文言を挙げています。ただし文言があっても、全体から見て不明瞭なら足りません。動画で一瞬だけ出す、末尾の小さい文字、矛盾する「第三者の感想です」との併記も、不明瞭の例です。
契約では、投稿ごとに入れる開示文言、入れる位置(キャプション先頭、動画内スーパー)、プラットフォームの有料パートナーシップ表示の併用を、広告主の指示事項として書きます。違反時の修正期限も、広告主側の義務履行のために必要です。
米国連邦取引委員会(FTC)は、2023年7月26日にEndorsement Guides(16 CFR Part 255)の改訂を発効させました。ガイドは法律そのものではなく、FTC法第5条の運用解釈です。重要な取引上の関係(報酬、無償提供など)は、明確かつ目立つ方法で開示する、というのが中核です。
改訂では、インタラクティブ媒体で開示が「避けられない(unavoidable)」ことが強調されています。推薦の本文は「続きを読む」の外に見えるのに、開示だけがそのリンクの奥にある例は、目立つ開示ではない、と整理されています。
広告主は、有料の推薦者の発言を監視し、欺瞞が続かないよう手を打つ、という趣旨の例もガイドにあります。日本の告示が広告主中心なのと向きは似ていますが、米国では推薦者側の責任もガイド上で明示されます。米向け配信があるなら、開示位置のスクリーンショットを納品物に含めると、後からの言い争いが減ります。
英国のCAP Codeでは、対価やインセンティブ、ブランドとの商業的つながりがある投稿は、広告として一目で識別できなければなりません。ASAの案内は、Ad / Advert / Advertising / Advertisement Feature などを適切とし、「sponsored」「gifted」「affiliate」だけでは足りないことが多い、としています。ラベルは冒頭で、操作しなくても見える位置が求められます。
ASAは2024年、InstagramとTikTokの英国アカウントを対象に、約5万件のコンテンツを調べた報告を出しています。ルールに沿った開示は約57%、開示ラベルを試みたが文言が不十分は9%、開示が全く無い広告は34%、としています。ファッションと旅行で未開示・不十分な例が多かった、とも書いています。英国向けは、ブランドとインフルエンサーの双方に責任がある、という整理です。
EUでは不公正商慣行指令(UCPD)が土台です。欧州委員会のInfluencer Legal Hub(Legal brief #6)は、対価や資産価値のある提供と広告サービスが結びつくなら開示が必要で、未開示の記事体広告(advertorial)は附属書の不公正類型に当たる、と説明しています。ハッシュタグの推奨は国の自主規制で違うため、配信国の当局案内を契約添付にします。
日本向けの「PR」だけで、英国面とEU面を兼ねるのは危険です。配信国ごとに、必要なラベルと位置を表にします。
独占は、期間・商品カテゴリ・競合社名を書かないと、後から「同業他社の案件」で揉めます。カテゴリ独占と、全ジャンル独占は別物です。対価に見合う範囲だけ切ります。
炎上時は、投稿削除と広告停止が別作業です。Partnership adsが残っていると、フィードを消しても広告面に出続けます。誰がAds Managerを操作するか、何時間以内に停止するか、残存インプレッションの費用負担を、先に決めておきます。代理店が広告アカウントを持っている場合は、停止権限の連絡先を契約の別紙にします。
英国のインフルエンサー向け案内は、関係が続いている間と、終了後一定期間の関連コンテンツでも開示が必要になり得る、と説明しています。終了日をカレンダーに入れ、開示付きの残余投稿を誰が確認するかを決めます。
1. 成果物の権利:著作権は譲渡か利用許諾か。改変・他言語・切り出しの可否。
2. 二次利用:媒体、国、期間、投稿削除後の扱い。MetaのPartnership Ads許可(内容単位かアカウント単位か)。
3. 開示:日本は広告主責任で「広告」「PR」等を明瞭に。米国は避けられない位置。英国はAd等の冒頭ラベル。EUはUCPDと国別案内。
4. 独占:カテゴリ、競合、期間。終了後の残余広告の停止手順。
5. 炎上・是正:削除と広告停止の担当、期限、費用。景表法・FTC・ASAの指摘が来たときの修正義務。
見積の段階でこの5行が空なら、単価が安く見えても後で止まります。契約書のひな型より先に、配信国リストとクリエイティブの使い道を1枚にして、法務と運用で同じ表を見ます。
A. 原則は別許諾です。著作物の利用範囲と、MetaのPartnership Adsなどプラットフォーム上の許可が、両方必要です。
A. 告示の対象は広告主(事業者)です。第三者の依頼先は対象外と案内されています。だからこそ、開示は広告主の指示事項として契約に書きます。
A. 足りないことがあります。米国は位置が避けられる開示を問題視し、英国はAd等の冒頭ラベルを求めます。配信国ごとに表を分けます。
調査時点:2026年8月