Airbnb Experiencesはなぜ都市ごとに全く違う体験を成立させられるのか
Airbnb Experiencesは本社が台本を配るのではなく、現地ホストとレビューと供給の選別で都市差を残す。2025年5月再始動、2026年Q2供給約+80%。宿なし予約が約半分。日本企業への示唆3点。
海外マーケティング事例

都市ごとに体験が違うのは、翻訳の上手さではなく、誰が中身を書くかを本社が手放しているからだ。Airbnbは2025年5月13日のSummer Releaseで、宿泊に加えAirbnb ExperiencesとAirbnb Services、新アプリを同時に出した。体験は「その街をいちばん知る現地ホスト」が主催し、本社はカテゴリと品質の選別、レビューに基づく改善提案、検索の並びを持つ。2026年第2四半期、体験の供給は前年同期比で約80%増えた。2025年第4四半期には、体験予約のほぼ半分が宿泊予約に紐づいていなかった。京都の茶とリスボンのタイルとメキシコシティの食は、同じSKUにならない。同じ型で世界ツアーを配る会社が真似できないのは、現地ホストと品質ループが都市単位で回っているからである。
- Experiences:現地ホストが案内する体験商品。座席(seats)で計上される。
- Nights and Seats Booked:宿泊夜数と体験・サービスの座席を足した予約指標。
- GBV:Gross Booking Value。手数料・税込みの取扱高。
- キュレーション:掲載を無限に増やさず、需要カテゴリと品質で選ぶこと。
- Superhost / Guest Favorite:宿泊側の品質ラベル。Guest Favoriteは4億泊超(2025年Q2時点の会社説明)。
- 非紐づき予約:宿を取らず体験だけ予約すること。2025年4Qで体験の約半分。
結論——本社は台本を配らず、都市のホストとレビューを残す
失敗する現地化は、東京本社が「京都2時間・英語ガイド付き」を全世界にコピーすることだ。Airbnb Experiencesの設計は逆で、都市ごとにホストが中身を決め、プラットフォームは掲載の可否・検索順位・改善インサイトを持つ。体験そのものは2016年頃から存在し、2023年に一度コアの宿泊へ寄せて止めたあと、2025年5月13日に宿泊の横へ戻した。再始動の条件は「面白いものを選ぶ」であり、無限に増やすことではない。2026年Q2の株主レターは、需要の高いカテゴリに数千件を追加し供給が約80%増、座席予約も前年・前四半期比で加速したと書く。品質管理の本体は、本社編集部の台本ではなく、公開前のKnowledge/Activity/Place/Photosと、公開後のレビュー・キャンセル・カスタマー報告である。都市差はバグではなく、設計の出力である。
接点① 京都——翻訳ツアーではなく、ホストの手仕事がSKUになる
京都で成立しやすい体験は、茶・工芸・朝の市場のように、言語を超えて手順が見えるものだ。同じ「文化体験」でも、本社が写真と英文を統一すると、どの店も同じカートになる。Airbnb側はホストが現地の人であること、レビューが蓄積すること、カテゴリが需要側(食・工芸・屋外)に乗っていることを見る。2026年Q2、日本originの純夜数は前年同期比で10%台後半と会社が書く。牽引は国内旅行であり、訪日インバウンドの数字ではない。京都のホストが英語を完璧にするより先に、キャンセル方針と少人数の定員と写真の現場感がレビューに効く。これは本社のローカライズチームが台本を直す話ではない。
接点② リスボン——歩きと食が、宿泊と切り離して売れる
リスボンは欧州の短時間滞在が多く、体験だけ予約する動機が強い。Q4 2025の会社説明では、体験予約のほぼ半分が宿泊に紐づいていなかった。つまり体験は「宿のオプション」ではなく、別マーケットプレイスとして数え始めている。Nights and Seats Bookedは宿泊夜数と座席を足した指標で、他社比較の統一基準はない、と株主レターも注記する。リスボンのホストが売るのは、坂とタイルと朝市の時間帯であり、京都の茶室と同じテンプレートには乗らない。プラットフォームが都市差を殺さないのは、SKUをグローバル共通商品にしないからである。日本企業の越境ECが「全都市同じLP」を出すのと、対極にある。
接点③ メキシコシティ——食と音楽の供給を、需要カテゴリで増やす
Q2 2026レターは「最も需要のあるカテゴリ」に体験を追加したと書く。メキシコシティなら食・音楽・街歩きがそれに近い、というのは都市の需要の読みであり、会社が同市の内訳を開示したわけではない。供給+80%は全都市一律ではなく、需要があるカテゴリに寄せる、とレターは書く。宿泊の供給方針は right place, right time である。ワールドカップ準備では2025年10月から16都市の新規ホストを狙い、初回ホスト物件を15万件超載せた。これは宿泊の数字であり、体験供給+80%の内訳ではない。品質は「数を増やすな」ではなく、「需要のある型だけ厚くせよ」である。本社がメキシコ料理のレシピを書く必要はない。
接点④ 東京——アプリ64%と、初回予約者+11%の着地
Q2 2026、アプリ経由の宿泊夜数は前年比+23%で全体の64%(前年同期59%)。初回予約者は+11%と4年で最高、ブラジル・日本・インドが強い。体験はアプリのタブで宿の横に並ぶ。東京のビジネス客が夜だけ体験を取る動きは、宿なし予約約半分というQ4の数字と重なる。認知層(検索・アプリ)の着地が都市別体験であり、本社サイトの英語グローバルページではない。3層モデルで言えば、Layer1の流入を都市別SKUに落とす。日本企業の海外サイトが「About Us」の英語版だけを着地にすると、この着地設計と食い違う。
品質管理——500万ホストではなく、レビューと除外とインサイト
会社概要は世界で550万超のホスト、累計25億超のゲスト到着と書く。体験の品質をこの母数のまま開放すると、都市差はノイズになる。宿泊側では2023年の品質システム以降、低品質掲載を50万件超除外し、カスタマー対応とチャージバックが減った、と2025年Q2レターが書く。Guest Favoriteは4億泊超。体験側の2025年再始動は、公開前の審査と継続的な品質確認をServicesと並べて説明された。2026年Q2のquality insightsは直近レビューに基づく改善提案で、文脈は宿泊掲載が主である。体験に同じ画面があるとは会社は書いていない。品質管理の骨格は、(1)掲載前の選別、(2)掲載後のレビュー、(3)低品質の除外、(4)検索で高品質を上に出す、の4段である。ヘルプの現行要件はさらに具体的で、公開前にKnowledge(実務5年以上、家系の継承、またはメディア実績のいずれか)、Activity(その都市の文化・食・人との結びつき)、Place(安全・清潔・適正規模)、Photos(文字なしカラー写真を最低5枚、行程項目ごと)を求める。免許と保険はホスト責任で、運転・船舶・飛行やスクーバなどは保険証明が公開の前提例に挙がる。第三者の審査会社も現地法の遵守を保証しない、とAirbnb自身が書く。EU居住ゲストが取り得る以上、宿泊・移動・食事を束ねた体験にはパッケージ旅行指令(2015年)がかかり得る。本社コピーライターは4段のどこにもいない。
数字——体験はまだ小さいが、供給と座席は加速している
Airbnb全体の2026年Q2は売上36億ドル(+17%)、GBV 272億ドル(+16%、為替除き+15%)、Nights and Seats Booked +10%、純利益8.16億ドル、調整後EBITDA 13億ドル・マージン35%。ADRは184ドル(+5%)。通期売上は少なくともミッドティーン成長、調整後EBITDAマージンは少なくとも35.5%を見込む。上半期累計のNights and Seatsは3億450万(前年同期2億7,750万)。Q2のimplied take rateは13.2%で前年同期並み。体験単体の取扱高は株主レターに独立開示がない。分かるのは供給約+80%、座席予約の加速、2025年下期のホストオンボード増、Q4の非紐づき約半分、である。過大評価せず、「宿の横に載る第二市場が、都市別SKUで伸びている」と読む。SeatsをNightsと足す指標は比較可能性に注記があるため、体験だけの成長率を他社OTAと比較しない。
日本企業への示唆3点——台本・選別・宿なし
示唆は3つに限る。(1)現地体験の中身は現地の人が書く。本社は写真規定・キャンセル・少人数定員・保険の枠だけを持つ。(2)品質は翻訳校正ではなく、レビュー項目をホストに返し、基準を下回る掲載を外すこと。宿泊側50万件除外は、体験でも同じ思想が使える。(3)体験を宿のオプションに縛らない。約半分が非紐づきなら、広告の着地も「ツアー付き宿泊」ではなく都市×体験カテゴリで切る。越境の化粧品・食品・B2B見学ツアーでも、SKUをグローバル1本にせず、都市(または国)×ホスト(または販売店)の表にする。3層のLayer1予算を増やす前に、着地が都市別になっているかを見る。
若手が誤解しやすい一点——ローカル写真を載せれば現地化だ
誤解は、ストック写真を京都とリスボンで差し替えればExperiences型だ、という読みである。写真差し替えは翻訳と同じレイヤーで、誰が中身の責任者かが変わっていない。もう一つの誤解は、ホスト数を増やせば都市差が出る、という読みだ。選別なしの増員は、同じ安いツアーの複製を増やす。正しく読むなら、需要カテゴリ×都市にホストを厚くし、レビューで残す。ワールドカップ16都市の15万件は「需要がある都市に新規ホストを狙った」供給であり、全世界同時キャンペーンではない。
この先の90日——自社の海外体験を都市×責任者の表にする
90日の作業は狭い。(1)いま海外向けに出している体験・工場見学・店舗イベントを都市別に書き出す。(2)中身の責任者が本社か現地かを1列にする。(3)レビューまたはアンケートがホスト(現地)に返っているかを確認する。(4)宿・本体商品と紐づけ必須にしていないか、単体予約できるかを見る。(5)広告着地をグローバル英語ページから、都市×カテゴリに1本でも移す。Airbnb Experiencesが都市ごとに違う体験を成立させる代償は、本社が物語の著者をやめることだ。品質の著者はレビューであり、物語の著者は現地ホストである。
都市差はローカライズ予算の多寡ではない。誰が体験の中身に責任を持つかを、本社から現地ホストとレビューに移した会社だけが、同じアプリで京都とリスボンを同時に売れる。
よくある質問
Q. Airbnb Experiencesはいつ本格化したのですか?
A. 現行の形は2025年5月13日のSummer Releaseで宿泊の横に再配置されました。2026年Q2には供給が前年同期比約80%増えています。
Q. 品質はどう担保していますか?
A. 掲載のキュレーション、レビューに基づく改善提案、低品質の除外、検索での優遇です。宿泊側では2023年以降50万件超を外した実績を会社が示しています。
Q. 宿泊とセットでないと売れませんか?
A. 2025年Q4、体験予約のほぼ半分は宿泊に紐づいていませんでした。別市場として設計されています。
Q. 日本企業が最初に真似すべきは何ですか?
A. 海外体験の台本を本社で書かないこと、レビューを現地責任者に返すこと、単体予約できるようにすることの3点です。
UDXでは、都市×現地責任者×レビュー還元の表に落とし、越境の体験・店舗・見学の着地を宿なしでも予約できる形に直します。
相談する →主な出典
Airbnb Newsroom Q2 2026(2026-08頃:売上$3.6B・GBV $27.2B・Nights and Seats +10%・体験供給約+80%)https://news.airbnb.com/airbnb-q2-2026-financial-results/ / Shareholder Letter Q2 2026 PDF(アプリ夜数64%・初回予約+11%・日本origin高10%台後半・ADR $184・H1 Seats+Nights 304.5M・take rate 13.2%) / Newsroom Q4 2025(体験の約半分が宿泊非紐づき)https://news.airbnb.com/airbnb-q4-2025-financial-results/ / Shareholder Letter Q2 2025(2025-05-13 Experiences/Services/新アプリ、宿泊品質50万件超除外) / Help「Standards / vetting / licenses」(写真5枚・免許保険はホスト責任・PTD) / 会社概要(ホスト550万超・累計到着25億超) / 調査時点:2026年8月10日。
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